
2026年1月に厚真町ローカルベンチャースクール(以下、LVS)が、2月にローカルベンチャー選考会(以下、選考会)が行われました。
厚真町でローカルベンチャー事業が始まってから10年という、節目の年でした。
これらのローカルベンチャー事業を担当している厚真町役場職員が、2025年度の取り組みを振り返り、今後についても語りました。
地方創生担当理事の大坪秀幸(おおつぼ・ひでゆき)と、まちづくり推進課・政策推進グループ主査の小松美香(こまつ・みか)です。
誰かのチャレンジを応援することの、尊さも、むずかしさも実感したという二人。
チャレンジする人だけではなく運営側も、考え、ときに悩みながらも、歩んでいます。
共に進んでいくローカルベンチャー事業を目指して。
この記事が、チャレンジしようか迷っている人や参加を検討している人の背中をそっと押すことができたら——。そんな思いをこめて、公開します。
参加者が人生や自分自身と向き合った、LVSと選考会
――これまではLVSで、事業プランを磨くスクールと、厚真町地域おこし協力隊の選考会をあわせて行っていました。LVSと選考会を切り分けての実施は、2025年度が初めてでしたね。振り返って、いかがでしたか。
小松:LVSは、町内外から合計11名に参加いただきました。LVSと選考会を分けて実施してよかったと思います。選考を意識せずにLVSを行えました。働き方のみならず、LVSを機にこれまでの生き方を振り返り、人生まで考えていた人もいたことが印象的でした。
今回LVSではチーフメンターである勝屋久さんから参加者のみなさんに「自分軸」のお話をしていただきました。勝屋さんによると自分軸とは、「自分の本質的な、心の底からありたい価値観や信念をベースとした意思決定、決断、あり方、生き方、心持ち、行動指針」のことです。
(編集部より補足:自分軸の詳細について、勝屋さんが自身のブログに記録されています)
そこでハッと気がつくこともあれば、そのあとに時間をかけて気づいたり、自分で「自分軸はこれだ」と思い込んでしまって抜け出せないこともある。自分軸を見つけるのは簡単なことではないと思います。
大坪:勝屋さんの自分軸の講義やメンタリングをきっかけに自分を見つめ直し、「今の事業プランは本当に自分がしたいことなのか。違うかもしれない」と気づいた人がいました。当初は選考会への参加を希望していましたが、厚真町への移住は決めつつも、起業や協力隊といった形ではなく、まずは自由に厚真町を楽しもうと、自ら「選考会には参加しません」と決断したんです。
小松:LVSでは質問を書いたメッセージカードを参加者にお渡しするのですが、私は多拠点での事業を考えていたある人に「厚真町にどれくらい居れるんですか?」とお聞きしたんです。それがその人のなかで考えるきっかけになり、変化があったそうです。厚真町で地域おこし協力隊にチャレンジすることを決断されました。
大坪:その人はもともと「厚真町で事業をやりたい」と考えていましたが、LVSに参加したことでその気持ちを一層強いものにしたんですよね。厚真町民となって事業を進めたほうが、事業をより加速して進められるとお考えになったのだと思います。
選考会には4名が参加し、そのうち2名が採択されました。今年度のLVSや選考会を通じて、すばらしい人たちが厚真町に来てくれることになって、本当に良かったと思っています。

――LVSは、2025年度で10年目という節目でもありました。
大坪:おかげさまで10年間、さまざまな人にお会いできました。その結果として、実際に厚真町でローカルベンチャーが増え、それぞれ活躍している様子が目に見えるようになっています。町内にお店も増えました。また、町民がローカルベンチャーを見る目が、当初と比べると変わってきたと感じます。活躍する姿を見て、応援する人も増えている印象です。
LVS以外でも、厚真町に関わってくれる人が増えているとも感じます。例えば、町内のローカルベンチャーに関心をもって来てくれる人たちがいて、その雰囲気に興味を持って集まってくれる人たちもいて。10年間、LVSを続けてきた効果の一つだと思います。
小松:この10年で町内にさまざまな人が増えたことで、「何か一緒にやろう」という動きも生まれ、少しずつ増えている気もします。例えば、交流会が開かれたり、10数年ぶりに厚真神社のお神輿担ぎが行われたり。LVSの運営側である私たちも、来てくださる人たちから多くの刺激を受けています。
大坪:うん、10年前と比べて小松さん自身がすごく変わったと思いますよ。明らかに以前とは変わって、やりがいをもって仕事をしている様子を感じます。私自身も、若い頃は人を羨む気持ちがありましたけど、今はローカルベンチャーの活躍がとてもうれしく、彼らに良いことがあれば一緒に素直に喜べるようになりました。それは、この仕事をしていて本当に良かったことの一つです。

LVSは人の純粋性と出会える場。「応援」について考え続けたい
――10年でまちの景色が変わっているのですね。運営は簡単なことではないと思いますけれど。
大坪:10年間LVSに関わり、いろいろなローカルベンチャーやチャレンジャーたちに出会い、接してきて、運営として今感じていることもあります。自分に経験則が積み重なっていく一方で、自分の純粋さは失われていないかと自問しているんです。だからこそ、LVSの参加者の「自分は本当に純粋にこの事業や夢を成し遂げたいんだ」という気持ちに触れることができると、共感しますし、応援したくなります。
小松:勝屋さんが、「LVSは人の純粋性と出会える場」とおっしゃっていました。参加者たちは、自分の純粋性が見つかると、その人自身や事業計画への思いなどがぐっと変わるポイントになる気がします。私も、純粋性については今年ようやく自分の感覚として感じられるようになったと思います。
――2025年度のLVSを含めたローカルベンチャー事業は、「応援」がキーワードになっていました。
大坪:はい。運営に関わるみんなでいろいろと議論をしてきました。そのなかで深められたこともありますが、非常に難しい部分も感じました。個人的に、自分が「人に優しく接することが応援だ」という、ある意味での勘違いをしてしまっていなかったかと反省もあるんです。それが率直な今の気持ちです。
小松:私も運営として、応援とは自分軸を肯定するだけでいいのか、参加者が自分で立つことを妨げていないか、考えさせられました。
――応援という言葉のむずかしさも実感したのですね。参加者に真摯に向き合っているからこそ、「これでよかったのか」と感じるのだとも思います。
大坪:私は立場上、業務で部下を評価しなくてはいけないときがあるのですが、そのときいつも思います。「こんな自分が評価をしていいのか」って。今後もローカルベンチャー事業で「本当の応援」とは何か、考え続けていきたいです。

いろいろな人の可能性を広げることができる、一つの装置をつくりたい
―― 2025年度は初めてIPPOカフェも実施されました。今後のLVSや選考会、IPPOカフェなどのローカルベンチャー事業はどうなっていくのでしょうか。
大坪:先ほども話したように、町内で活躍している人たちが間違いなく増えています。これは厚真町にとって大きなプラスですから、厚真町の将来のために続けていかなくてはいけない事業だと思っています。
これまで10年間やってきたことや、今年度で少し見直しをしてLVSと選考会を分けたことは間違っていないと思いますし、方向性は変わりません。ただし、先ほどお話しした「本当の応援」が何なのかを意識しながら、のぞみたいです。
一方で、ローカルベンチャーとして起業した人のなかには、波があったり、悩みや壁にぶつかっている人もいると思います。そういう人たちの応援やフォローについても、これまでとは違った視点で考えて、何か動いていきたいです。
小松:起業したい人がLVSに参加したり、「何かやってみたい」という段階の人がIPPOカフェに参加したり、今後も町内外から多様な人が参加できるといいなと思います。いろいろな人がつながりをつくれて、そのつながりが力になるといいですよね。仲間をつくる場づくり、相談できる場づくりができるといいなと思います。いろいろな人の可能性を広げることができる、一つの装置をつくりたいですね。
――これからも応援の文化、チャレンジの文化を育てていくために、どんなもの・ことがあったらいいと思いますか。
大坪:2025年12月に、共にLVSを運営しているエーゼログループさんに場をつくっていただき、みんなで香川県三豊市(みとよし)へ視察に行ってきました。
三豊市では、東京から移住して宿泊施設をオープンしたプロジェクトデザイナー・地域プロデューサーの古田秘馬(ふるた・ひま)さんが中心になって、自治体のお金は頼りにしない形で次々にローカルベンチャーを育てています。そのローカルベンチャーがいろいろな事業を立ち上げているんです。そうした動きの中心になっているのは、2022年に18の事業者・個人が出資して設立された「瀬戸内・暮らしの大学」。子どもから大人までを対象にしている学びの場です。
小松:私も視察に行きました。驚いたのは、地域の事業者どうしがフランクな関係性をつくり、まちにあったらいいなと思うものがあれば、「私がやるわ!」とそれぞれが積極的に動かれていることです。それぞれが自分の役割をもち、「じゃぁ私がやる」「応援する」という文化が生まれているんだろうな、と。それも「瀬戸内・暮らしの大学」ありきではなくなっているほど、そういう文化がしっかり醸成されていると感じました。
大坪:三豊市のみなさんの姿がまさに理想的で、厚真町でも将来的にこういう形にできればと思いました。つまり、自治体が始めた事業であっても、将来的にはローカルベンチャーが主体になるという意味です。みんなで新しいローカルベンチャーを応援し、その人たちが大きくなっていく。それこそが本来の姿だ、と。
「応援とは何か」って簡単に結論は出ないのですが、応援する側もされる側も、一緒に同じ立ち位置で同じ目標に向かうことが必要なのかもしれません。応援の文化をつくるために、これからは厚真町のローカルベンチャーのみなさんに力を借りながら、LVSを運営していければいいなと考えています。一同で感銘を受けて帰ってきて、その後、厚真町の地域おこし協力隊やローカルベンチャーの人たちも視察に行ったところです。
――2026年度以降の取り組みも楽しみにしています。ありがとうございました。

取材・執筆:小久保よしの
撮影:株式会社エーゼログループ
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