
厚真町で2016年から始まり、毎年開催されている「厚真町ローカルベンチャースクール(以下、LVS)」。
参加者が「やってみたい」という自らの思いを具体的なプランにし、それを磨き、起業などの形にすることを目指すプログラムです。
これまでに多くのローカルベンチャーを輩出してきました。
LVSを中心とした厚真町のローカルベンチャー事業は、2025年度から新たなステージに入ります。
LVSが始まった経緯や未来像、変化など、これまでのLVSを振り返りながら、2025年度からの変更点などについて、LVSを運営してきた厚真町役場職員である三人にお話をお聞きしました。
地方創生担当理事の大坪秀幸(おおつぼ・ひでゆき)、まちづくり推進課課長の宮下桂(みやした・けい)、産業経済課 林業・森林再生推進グループ主幹の宮久史(みや・ひさし)です。
厚真町の未来にワクワクするようなお話になりました。
あなたの「やってみたい」も、「できた!」にしていきませんか?
上司たちが後押ししてくれる土壌と、若手職員の企画力
――まず、2016年に「厚真町ローカルベンチャースクール(以下、LVS)」が始まった理由を教えてください。
宮:地域の持続可能性を高めていきたいと考えたからです。僕は役場内で林業を担当していましたけど、林業だけではなくまち全体を盛り上げたい、と。厚真町が、まちとしてこれからも幸せを生み出す基盤であり続けることを目指したとき、最も大事なのは人だと思ったので、人にフォーカスした事業をつくる必要があるんじゃないかと考え始めたんです。
そんななか2015年に岡山県西粟倉村で「西粟倉ローカルベンチャースクール」が始まって、地域に人が集まり、しかも起業が起きていると知り、強く惹かれました。そういうチャレンジが厚真町で起きていったら、厚真町の持続可能性が高まると思って始めたんです。当時は「持続可能性が高まる」という言葉を使っていましたけど、今は「未来が楽しみになる」だと思っています。

――それはなぜ厚真町で実現できたのだと思いますか。
大坪:LVSが始まる9年前、2007年から本格的に民間企業などの経験者の中途採用を始め、町外から移住してきた役場職員が増えていたんですね。そのなかに宮や、宮下もいます。私はそういった新しい職員を含めて人に興味があって、特に宮とは部署も仕事も違うんですが、よく雑談をしていました。
あるとき、宮とトイレかどこかで会ったときに「ローカルベンチャーをつくる、こういう取り組みをやってみたい」と聞いて、「やりたいなら、ぜひやってみればいいんじゃない」と後押ししました。賛成した理由は、私は移住・定住の事業を長く担当していたことがあり、その仕事を通じて、目標や目的を持っている人に厚真町へ来ていただけるといいなと感じていたからです。それで始まりましたね。

宮:僕は三つあると思います。一つ目は、役場内に話を聞いてくれる上司が多かったことです。もともとそういう風土があったんだと思います。
二つ目は、厚真町役場では有志の若手職員で「プロジェクトチーム」を結成して、仕事として活動していたことです。そのメンバーの多くは、先ほど大坪が話した中途採用の職員でした。2011年に役場に入ってから僕も先輩たちのプロジェクトにちょっとだけ参加させていただき、先輩たちの背中を見ながら、自分の担当である林業をはみ出たプロジェクトを企画し、活動させてもらったんですね。そのときも応援してくれたのは大坪で、宮下はチームメンバーでした。そういう流れがあったので、LVSを企画しても、きっと話を聞いてくれるんじゃないかなと感じていました。
三つ目は、地方創生の財源です。当時は財源が確保されたら新規事業もできる雰囲気があったので、とてもいいタイミングだったんだと思います。
宮下:移住者や民間企業での勤務の経験者が多いことは、厚真町役場職員の特徴の一つです。今大坪や宮が話したように、上司たちが後押ししてくれる土壌と、若手職員の企画力が両輪となってLVSが生まれたのだと感じています。

「人が人を呼ぶ好循環」や「チャレンジの連鎖」が始まっている
――LVSを始めるときに、未来像として描いた絵やシーンはあるんですか。
大坪:企業誘致を進めてきた自治体は多いと思うのですが、厚真町のような小さなまちに興味を持つ企業は少ないんですよ。そうであれば、LVSで起業家を育てて、その起業家が事業を上手に回してくれて、いずれ雇用が増えていけばいいな、と。そのほうが現実的で厚真町に合っているんだろうと感じていました。
宮下:「人が人を呼ぶ好循環」や、誰かのチャレンジに刺激されて別のチャレンジが生まれる「チャレンジの連鎖」という話は、当初からしていましたよね。それが今本当にそうなりつつあると実感しています。
大坪:ローカルベンチャーとして厚真町に来てくれた人が、それぞれいろいろな分野で活躍してくれて、本当にまちに活気が出てきました。それを少しずつ肌で感じられるような状況になっていると思います。

――変化を感じたのはいつ頃ですか。
大坪:ここ3、4年のような気がします。それはLVSのローカルベンチャーだけではなく、違う入口から入ってきてくれたベンチャーの方たちの活躍も見えるようになった結果だと思います。「人が人を呼ぶ」という形ができてきたのかなと感じています。
宮下:僕はここ数年です。コロナ禍の頃から兆しは感じていましたが、ここ数年でさらに変わってきて、「この変化は確かなものなんだ。明らかにこれまでと違う段階に入った」と感じたのは2024年のLVSでした。
宮:役場側もまだ努力を続けないとこの流れは終わってしまうんだろうなと思ってはいますが、いろいろな方の紹介のおかげで「人が人を呼ぶ」状況を感じたのは2024年ですね。「クオリティの高い素敵な事業計画を持っている方が、まちにいる誰かの紹介で、こんなに来てくださるんだ」「こんなに来てもらえるまちになりつつあるんだな」と、強く感じました。
大坪:町外のいろいろな方が「厚真町って良いよね」っていう話をしてくださって、そういう話を耳にするようになりました。自分の肌で感じたというよりも、そういう話を聞けるようになって好循環ができつつあると感じているのかもしれません。

――LVSが始まってから、町内でローカルベンチャーが50数社生まれ、その年間売り上げも約9億円だと聞きました。とてもインパクトがありますし、以前よりお店が増えてまちの景色が変わってきていますね。
大坪:それはLVSに参加せずに起業された方なども含めた数字ですが、そのように数字できちっと示せるようになったことはとても大きいと思います。
宮:LVSが始まって印象に残っているシーンの一つが、「ブーランジェリーペロン」さん。LVSへの参加を経て、起業型地域おこし協力隊になったペロン珠穂さんが、町内でオープンしたお店です。あるとき、ペロンさんが小学校で講義をして、子どもたちに試食もさせてくれたそうなんです。うちの子どもが家に帰ってきて「ペロンさんのサンドイッチを食べたんだけど、とってもおいしかったよ。僕はあのサンドイッチを自分のお小遣いで買いたいな」って話してくれたんです。そういうシーンが増えていったら嬉しいですね。

地域の応援力が高まることで、幸せの連鎖が起こるまちへ
――LVSは2025年度から「これまでは一続きだったLVSと選考会を明確に分け、選考会は起業型地域おこし協力隊と協働型地域おこし協力隊の二つが対象となる」という変更がありました。またLVSとは別に、町民がビジネス以外のチャレンジをする取り組み「IPPOプロジェクト」が始まります。まちとして「厚真町は開拓者を育む大地であり続けたい」を掲げ、応援力を上げていくという次のフェーズに入りますね。
大坪:これまでLVSには、自分の夢を実現するため多くのチャレンジャーが集まってきましたが、今後は町民にもこの流れをもっと伝播させ、ローカルベンチャーを輩出するまちとして成長したいと思います。また、これからは女性の活躍がより一層求められる時代です。子育てなどが一段落し、自分の力を試したいと感じたら、ぜひ一歩踏み出していただきたいですね。女性の皆さんの活躍も全力で応援します。
宮下:起業したい方への応援はもちろんですが、起業などの手前の、芽が出ていない“種”の段階にいる方たちが小さなステップを上がっていく応援も必要だと感じています。チャレンジのための仕掛けが標準インストールされ、小さなチャレンジが次々に生まれるまち。本当に「やりたい」と思ったら実現できるまち。将来、そんな厚真町になったらどんなに素敵だろうとワクワクしています。子どもからも大人からも、チャレンジが生まれたら嬉しいです。
宮:チャレンジャーの熱量が少しずつ伝播し、その結果、挑戦の連鎖が町の中で起こり続けることを目指しています。そんなまちになるには、地域の「応援力」が必要だと思います。「応援するよ」という人がいることで、チャレンジャーが最初の一歩を踏み出しやすくなったり、応援する人も含め地域内での楽しさが増加したりするからです。大切なのは、ビジネスになるか・ならないかではなく、やりたいことをやり切れることや、それをみんなで応援して楽しむことだと思います。地域の応援力が高まることで、幸せの連鎖が起こるまちになれればと思います。

――どういう人に一歩踏み出してほしいと思いますか。
大坪:これまでLVSを運営してきて、実際に起業して事業が成功している方は、人からも地域からも愛されている方だなと感じています。やはり人は、自分一人ですべての物事を完結できるわけではなく、いろいろな人に助けられながら成長していくものだと思うんです。そういう成長ができるように応援していきたいです。
宮:今まで「LVSでは、まず自分のやりたいことの実現と自分の幸せを考えてくださいね。『まちのために』とは考えなくていいです」とお話してきたんです。今後は、まちのためを考える必要はないけれど、できれば未来のことは一緒に考えたいなと思っています。自分の事業が成立したうえで、未来はどうなるんだろうと考えていただけたら嬉しいです。まちの子どもたちに少し関わったり、後ろ姿を見せてくれたりしたら、より嬉しいですね。起業家が持つエネルギーを未来に少し向けていただけたらと願っています。
――どのような方がLVSやIPPOプロジェクトなどに参加するのか、楽しみですね。
宮下:LVSは、現在エントリーを受け付けています。詳細はこちらをご覧ください。IPPOプロジェクトの募集は2025年秋から始まる予定です。お待ちしています!
――ありがとうございました。

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編集・取材・執筆:小久保よしの
撮影(3名):岡田和也(写真屋 橙)
写真提供(LVSなど):株式会社エーゼログループ
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