厚真町チャレンジ応援通信
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2025.10.31

厚真町が2025年度から掲げた「応援」って何?「真の応援」について話し合ってみました。

Focus大坪秀幸、小松美香、勝屋久、勝屋祐子

「応援してるから頑張ってね」
「応援するよ!」
あなたは誰かに、こうした言葉をかけられたことがありますか。
または、誰かに伝えたことがあるでしょうか。
現代ではまるであいさつのように、気軽に使われている言葉かもしれません。

「応援」という単語を調べると、「励ます」「助ける」「元気づける」といった言葉が並びます。
応援とは、何なのでしょうか。
そして厚真町にとって「応援する」とは、何なのか——。
厚真町のローカルベンチャー事業に関わるメンバーで、応援について改めて考えてみました。

語り合ったメンバーは、厚真町役場から、地方創生担当理事の大坪秀幸(おおつぼ・ひでゆき)と、まちづくり推進課・政策推進グループ主査の小松美香(こまつ・みか)の二人。
そして「厚真町ローカルベンチャースクール」と「ローカルベンチャー選考会」でチーフメンターを務める、勝屋久(かつや・ひさし)と勝屋祐子(かつや・ゆうこ)の二人です。
勝屋夫妻は「錦江町ローカルベンチャースクール」にも関わっていて、経歴についてはこちらの記事をお読みください。

簡単に答えが出ない問いだからこそ、語り合う意義があり、考え続ける価値もあります。実に、人間らしさにあふれた内容になりました。
「厚真町チャレンジ応援通信」では運営メンバーみんなで真剣に考え、ときに悩みながら、少しでも良い形を目指して、これからも向き合っていきます。
ぜひご一読ください。

応援とは何か。思い悩みながら進んでいく

――厚真町は2025年度の「厚真町ローカルベンチャースクール(以下、LVS)」をはじめとしたローカルベンチャー事業で、「まちの応援力を上げていく」ことを掲げましたね。

大坪:はい。LVSを始めた経緯や、厚真町で誰かのチャレンジに刺激されて別のチャレンジが生まれる「チャレンジの連鎖」が起き始めていること、今後は町民にもこの流れをもっと伝播させたいと考えていることなどは、こちらの記事で紹介させてもらいました。

ありがたいことに、2025年で10年目を迎えるLVSに注目してくださる方や企業が増えていると感じています。「厚真町に行けばいろいろなチャレンジを受け入れてもらえて、夢を実現できる」という認識が広がるのはうれしいことです。一方で、「報酬をもらって3年間は生活できるし、応援メニューがいろいろあるぞ」という情報も広まっているようです。

今年度のさまざまな準備のなか、運営メンバーで「応援って何だろう」と話し合ったんです。今回はそれをさらに深めたいです。物理的にも精神的にも、とても深いテーマですよね。意見が分かれる部分もありました。私は自治体職員として税金を扱う立場ですから、「こういう形でいいのかな」と思い悩みながら進んでいかなくてはいけません。

まず何かをしようとしている当事者がいて、その人のやろうとしている事業などに対して、自分たちが責任をもって応援していくことができるのか。その部分が重要だと思っています。

地方創生担当理事の大坪秀幸

――現在LVSのエントリーを受け付けていますが(編集部注:エントリーは2026年1月4日(日)18:00まで)、厚真町としてどのような人にLVSへ参加してほしいと考えていますか。

大坪:漠然としていますが、大きな夢をもっている方でしょうか。一般的には実現が難しいと思われるような夢であっても、叶えられると思えている方に来てもらえたらうれしいです。そういう方であれば、やりたいことに対する思いがひしひしとこちらに伝わってくるでしょうし、私たちが一緒に悩むことすらお互いに楽しくなるのではないかな、と。

また、素直に自分の今の状況を受け入れられる方だったら、置かれた状況を冷静に見つめて、次のステップに進みやすいですよね。

小松:厚真町でいろいろなローカルベンチャーやチャレンジャーの方たちを見ていると、自分の夢や事業プランへの愛着や愛情をもっていて、そういう意味で純度の高さを感じます。そういう夢や事業プランをもっている方に来ていただけたらうれしいですが、メンタリング中にメンターが「夢を共に育てていけるか」に集中して対話ができたら、みるみる芽が出ていく方がいるかもしれないとも考えています。LVSのなかで精一杯「この方のなかの純粋なものは何だろう」と対話を重ねていきたいです。

勝屋久:実は僕、会社員時代はお金が欲しいという「くれくれ坊主」だったんです(笑)。だから「応援=報酬」と考えてしまう人がいることは想像できます。いろいろな方がLVSに参加すると思いますけど、そういう人がいたとしても、LVSを通して自分や夢を愛することができて、純粋さを持ち帰れればいいですね。

大坪:純粋に何かに向かって頑張っていたら、仮に失敗したとしても自分で納得できると思うんです。

小松:私は「応援をどう受け取るか」が鍵かなと思います。まわりから応援されること、その思いを「責任」みたいに思うのはちょっと違うかもしれないけど……、「応援されたことをいつか何かで返そう」とか、ちゃんと受け取れる人が「応援される力」があるなとも感じます。それがあると応援するほうも、力をより発揮できるのではないでしょうか。

LVSでのメンタリングの様子。チーフメンターは勝屋久、祐子が務める

応援する側のスタンスや在り方を決め、覚悟をもつ

――地域で起業などの活動をするときには、誰かとのつながりが欠かせないケースが多そうです。「応援される力」とは、考えさせられますね。

勝屋祐子:応援の責任という話になるとむずかしいと思うんですけど……、厚真町役場は応援する側で、スタンスや在り方を決める以外はできないと思うんです。相手に「応援される力」を求めるのは、相手ありきなのでどうにもならない。人は変わるから、人生がうまくいかなかったり、自分のなかの不調和が出たりしたとき「お金、お金」と考えることもあるかもしれませんよね。誰もが紙一重な部分をもっている。

LVSの運営において、私たちができることの一つは、参加者の方を真摯に見ること。「『この人にかけてみよう』と思わせられる方がいたら、責任をもって応援しよう」というスタンスを徹底的に貫いたとき、人間の邪悪な部分が出ずに愛だけでいけるかもしれないと思います。

「こういう人であったなら応援できるのに」と考えると、相手に対するニーズ、相手に変化を求める部分がわいてきてしまう。相手に夢や事業プランに対する覚悟はお願いできても、それ以外の覚悟はあいまいすぎてむずかしくなる。私たちが「何があっても、どんな側面が出てきても100%愛する」という覚悟と責任をもつこと。それ以外はできないと思うんです。

大坪:自分が勘違いしていた部分に気づきました。長い間、運営側として関わってきて、初心では相手の夢を実現したい思いだけだったはずなのに、最近は相手に対して「応援に対する行動や成果などの結果を示してください」という意識があったと感じました。心が狭くなっていたんだな、と。

――LVSは2025年度から地域おこし協力隊採用過程となる「ローカルベンチャー選考会」とは切り離されて行われるため、選考のない、純粋な学びの場になりました。さらに秋から、ビジネス以外で一歩踏み出したい方のための「IPPOカフェ」も始まります。運営側が参加する方の可能性や気持ちを受け取るということは、運営側のほうこそ自分たちの在り方が問われ続けるとも言えますね。

勝屋久:「この応援がその人の人生にとって本当にいいことなのか。それが本当の愛なのか」と、こちら側の愛の深さが問われる。むずかしいテーマですね。いかに愛をもってその人のことを思って、考えられるか。

大坪:そうですね。チャレンジャーの方たちは悩んだり苦しんだりするときがあるかもしれませんが、それを聞いてどうしたらいいか話したり、何か明るい光が見えたら一緒に喜んだりすることが私たちのやりがいであり、楽しみでもあります。ローカルベンチャー事業は楽しい仕事だと思っていますので、今のこの気持ちで新たにスタートしていきたいです。

小松:見ていると、厚真町の役場職員はチャレンジャーの方たちに真摯に対応していて、当事者意識をもっている人も多いと感じます。私もそういう風に接したいと改めて思いました。

まちづくり推進課・政策推進グループ主査の小松美香

相手のためだと自信をもって伝えることが、真の応援だ

――最後に、「真の応援」とは何だと思いますか。自分が大事にしたいことでもかまいません。

勝屋久:経営者など「人を応援する」という仕事を10数年させていただいていますが、「この人を応援しよう」と決めるとは、何が起きても逃げずに向き合っていくということだと思います。その都度考え、自分にはどうしようもないときには祈る。そういう意味で、自分自身が試される場をいただいているのではないかと深く感じました。そんな思いで、チャレンジャーや役場職員を含めたみなさんと関わっていきたいです。LVSを楽しみにしています!

勝屋祐子:真の応援とは、「その人にとって何が一番いいのか」を考えること。もしかしたら、「今は厚真町の応援、つまりお金を受け取らないほうがいい」状況の人もいるかもしれません。例えば、自力で起業したり、事業プランを見直したりするほうがいいケースもあるかもしれないんです。

特にLVSは、運営メンバー全員で“ベスト”を考えてつくりあげていると自信をもって言えます。ローカルベンチャー選考会で採択されなかったとしても、それは厚真町における事業プランとしてどうだったかというだけで、人としての優劣ではありません。「あなたのことを真剣に考えた結果です。いつか受け取れますように」と祈るような気持ちでいます。

小松:「応援」という言葉をみなさんと改めて考えて、今は「愛って何だろう」というところにたどりついています(笑)。その人のことをどう思っていくか。その人にとっていいことって何だろうと、自分のなかでも考えていきたいです。今日はいろいろな学びをいただいたなと思っています。

大坪:真の応援とは、相手に応援の対価を求めないことだと思いました。それと、相手に対する結果を自分自身が恐れないこと。相手のためだと自信をもって伝えることが、真の応援だと思いました。

――応援について議論が深まって、2025年度からのローカルベンチャー事業がますます楽しみになりました。今日はありがとうございました。

取材:牧大介、小久保よしの
編集・執筆:小久保よしの
撮影(4名):岡田和也(写真屋 橙)
写真提供(LVS):株式会社エーゼログループ

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