
2026年7月、ローカルベンチャースクール(LVS)やローカルベンチャー選考会を経て、一人の女性が東京から厚真町へ移住しました。
20年以上ホテルに携わる仕事をしてきた、髙山みちよさんです。
起業型地域おこし協力隊として活動をスタートしました。
埼玉県出身の髙山さんは、もともと東京と厚真町の二地域居住を検討していました。
二地域居住とは、「普段の生活拠点とは別の地域での住まいや生活拠点を持つ、暮らしのスタイル」のこと。
でも、LVSをきっかけに自分でも驚く展開になり、移住を決意したといいます。
髙山さんのストーリーと熱い想いに、ぜひ触れてください。
二地域居住のトライアル滞在で、まちの人と自然に魅了された
――厚真町とは、どのような経緯で出合ったのですか。
髙山:厚真町の「10a(テンアール。旧・小林農園)」さんの平飼い卵を、ふるさと納税で2年くらい購入していました。
その後、私のパートナーが厚真町に支店・牧場がある畜産ベンチャー「GOODGOOD(グッドグッド)」さんとご縁があり、2024年秋に「謝肉祭」というイベントで厚真町を初めて訪れました。行くまで気が付かなかったのですが「厚真町って、あの卵の!」と思い出したんです(笑)。厚真町は新千歳空港からとても近く、あっという間に着いたと感じましたね。

――ローカルベンチャースクール(LVS)のことはいつ知ったのですか?
髙山:「謝肉祭」で厚真町在住の方と親しくなり、2025年3月に再訪してまちを案内していただきました。その頃は朝から晩まで仕事詰めで、今後の働き方を見直したいと考え始めていたので、そんな話をしたら、LVSの存在を教えてもらったんです。
でも、当時は「何か変えたい。自分でやりたい」とは思いつつ、それが何なのか具体的に見えていませんでした。「これまでのキャリアを生かして、何かできることがあったらいいな」と漠然と考えていましたね。
――厚真町主催の二地域居住モニターツアー「DUAL STAY ATSUMA 2025」に参加したそうですね。
髙山:はい。2025年7月に正社員だった仕事を辞め、個人事業主になったこともあり、二地域居住に関心があったんです。同月に、「DUAL STAY ATSUMA 2025」で二地域居住のトライアルとして10日間滞在し、まちをじっくりと見させていただきました。
まず、ローカルベンチャーである馬搬林業家・西埜将世さんや、同じく林業家の「木の種社」の中川貴之さんのお話を聞いて、自分がやりたいことに信念を持って起業されている方が多く、素敵だなと感じました。
次に魅了されたのは、自然の豊かさです。私は2023年頃からサーフィンが趣味の一つなのですが、まさか北海道でサーフィンができるとは考えていなかったんです。町内のサーフショップ「tacoo(タクー)」さんを利用し、初めて北海道の海に入りました。冷たい水の中で波に乗る感覚は、想像していた以上に爽快でした。浜までまちの中心部から車で20~30分ほどで行けることも魅力に感じました。

実は、私は狩猟もしているんです。本州で狩猟体験ツアーに初めて参加したとき、飼育されたものではない野生の命をありがたくきちんといただくというプロセスに尊さを感じました。多忙で食事に気を遣う余裕がなかった時期で、体調も思わしくなかったんです。そんなタイミングだったので「自分の食するものがどのようなもので、どこでつくられているのか」を考え直し、「私が食べている生きものは何を食べているのか」が大事なんだと気づきました。
2022年に狩猟免許の罠免許、2024年に網の免許を取得し、猟期は千葉県で箱罠を使って、イノシシやアライグマなどを獲っています。
私は銃で狩猟をする免許はまだ持っていませんが、厚真町ではエゾシカが獲れる森まで、まちの中心部から車で同じく20~30分ほどだと知って、「自分が大切にしているサーフィンと狩猟の両方ができるまちで、かつ利便性もいい」ことから、LVSの参加を考え始めました。
――当初は東京と厚真町の二地域居住を検討していたんですね。
髙山:そうです。でも、厚真町で具体的に何をやっていきたいのか、見えていませんでした。仕事でコンサルティング業もしていたので、「その経験を活かして地域の方たちの課題解決ができたらいいかな」と考えました。ただ、そうなると「相手ありき」なので、どういうふうに仕事に結びつけられるか分からず、ずっと悩んでいたんです。
そこで「厚真町チャレンジ応援通信」の「チャレンジ相談窓口」にオンラインで相談させていただいたところ、「2025年度からLVSの進め方が変わる」と知りました。
――それまではLVSの2泊3日の最終日、つまりLVSのなかで起業型地域おこし協力隊の選考会を行っていましたが、2025年度からLVSと選考会を別日に分けました。地域おこし協力隊を目指していなくても、LVSに参加しやすくなったんですよね。
髙山:そうなんです。「ぜひ受けてみてください」と背中を押していただいて、参加しました。その時点で移住という考えは持てていませんでしたね。

LVSで、自分が心からワクワクできるプランを考案できた
――LVSに参加してみて、いかがでしたか。
髙山: LVSではメンタリングの時間があって、午前中から夕方まで、いろいろなメンターの方たちと一対一でお話しします。前半は地域の課題をうかがって、それに対して自分に何ができそうか、お話をすることが多かったんですけど、後半は視点を変えて、私自身が何をやりたいのか、見つめ直す時間になりました。
私は大学卒業後、インテリアデザイナーとしてホテルの内装設計を手がけ、その後はプロジェクトマネージャーとしてホテル開発や改修のプロジェクトに10年以上携わっていました。東京を拠点に、北海道から沖縄の離島まで全国のホテルを出張で飛び回る日々を過ごし、合計20年ほどホテルに関わっていました。
ホテルは、普段の生活とは違う体験ができる非日常の場で、私は大好きなんです。そんなホテルの仕事はやりがいがありました。

――メンタリングで自分の思いに向き合ったら、見えてきたものがあったのですね。
髙山:はい。コンサルティングって、誰かが困っている課題があるから成立するものですよね。自分がどうやってビジネスをきちんと回し、生活していくかを考えていたとき、メンターである北海道よろず支援拠点の鈴木俊介さんが「ホテルの仕事、好きなんですよね。どうして辞めようと思ったんですか」と素朴な疑問を投げてくださったんです。
「仕事を辞めてまで、自分でやりたいことは何だろう。自分がワクワクすることって何だろう」と深く考えました。私は、ホテルというものがずっと好きで、ホテルに携わることをやめたいわけではないけれど、大規模なホテル開発はまちを画一化してしまうし、その土地の自然や文化が失われてしまうようで、それが嫌だったんです。
「本当はそこに疑問があって辞めたのだから、自然や文化を守り、その土地でしか表現できない宿泊施設を自分でつくったらいいのでは――」。そんな発想になったとき、「やりたい! どんな宿泊施設にしようか!」と頭の中をアイデアがバババッと巡って、すごく楽しいワクワクした気持ちになりました。
私だからできる宿泊施設。車で30分圏内でサーフィンも狩猟もできる、すばらしい立地——。それらをふまえ、「ゲストがやりたいことや大切にしたいと思っている時間をきちんと提供する宿泊施設」ができたらすごくいいんじゃないかなって思ったんですね。

社会人になって、こんなに人から応援されることはなかった
―― LVSで自分の想いがハッキリしたんですね。
髙山:別のメンターさんに話したら「そんな宿泊施設があったら自分もぜひ泊まりたい」と力強く後押ししてくださり、さらに別のメンターさんも「プランがもうできあがっているね!」と褒めてくださって、確信が持てました。
メンターの方たちが本当に真剣に、私以上に私のことを考えてくださって、私がやりたいと思うことを全身全霊で応援してくれる雰囲気がすごくありました。社会人になって、こんなに人から応援されることってなかったので、驚きましたね。ときには厳しいコメントをいただくんですけど、的確な内容で「きちんと考えてね」っていう意味だと受けとめました。
LVSの最後に、フィードバックを受けて自分がコメントをするとき、自然に「選考会、受けます!」って口から出たんです。それはつまり、二地域居住ではなく「起業型地域おこし協力隊として移住したい」という宣言です。メンターの方たちも私も全員驚いて(笑)、後日、選考会を受けました。
――LVSでつくったプランをさらに磨いて、選考会にのぞんだのですか。
髙山:選考会に向けて、LVSで見えてきた軸をさらに磨いていきました。厚真町は、自然を存分に堪能できるまち。だからこそ、「大人が自然と向き合いながら、本気で趣味に没頭できる場所。ゲスト一人ひとりが大切にしたい時間を、心ゆくまで過ごせる宿泊施設」というコンセプトにたどりつきました。趣味に真剣に打ち込む大人が、心から満たされる時間を過ごせる。そんな場所を目指します。

―― いいですね! これからどういうところから着手していく予定ですか。
髙山:2026年7月に着任したばかりなのですが、首都圏から離れて暮らすのは初めてなので、すべてが新鮮で楽しいですね。
宿泊施設の開業にあたっては土地がないことには始まらないので、まずは土地を探すところからです。サーファー向けの宿泊施設は海側の立地がいいでしょうし、ハンター向けの宿泊施設は山寄りの立地になるでしょうし、どちらを先に着手するかなど計画を詰めないといけないと思います。
厚真町で銃の狩猟免許も取得したいですし、厚真町近郊で狩猟をされている方にもお会いして、みなさんのお話をうかがって関係性を築いていきたいですね。無作為に動物を撃ちに来るような環境はつくりたくないので、地域の猟師さんにガイドとして同行いただき、ガイド料をお渡しする形で運用できないかとも考えています。
―― 厚真町のみなさんに向けて、メッセージをお願いします。
髙山:これから厚真町でいろいろな趣味を楽しみながら、いろいろな方たちとつながれたらと思っています。サーフィンや狩猟をされる方をはじめ、地域の方の意見をうかがって、事業計画をブラッシュアップする必要があると考えていますので、私の取り組みに共感してくださる方がいらっしゃったら、お会いできればと思います。これから、よろしくお願いいたします!
――ご活動、応援しています。ありがとうございました。
取材・執筆:小久保よしの
撮影:三戸史雄
写真提供(LVS):株式会社エーゼログループ
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